昨夜はドラムのサイトウユウキ宅で、二人でバンドの作戦会議をする約束があった。
21時に行くと言って20時40分過ぎに家を出て、着いたのが20時58分だった。我ながらベストだなと思った。
ドアをノックした時に、鍵が開いているのに気づき、入ろうとドアを開けたら、
暗闇の中、目の前で手をこっちに伸ばして立ってる人影に、私は思わず悲鳴をあげた。
「うわぁっ!」
するとその影はこう言った。
「・・・時間きっかりに来るって言ってたのに、2分早かったから、驚かしてやったんだ。」
彼には昔からこういう一面がある。
それから、口の中でこもらせたような、抜けの悪い声で笑いながら、私を薄暗い部屋に招き入れるのだ。
そういう時の彼は、実に楽しそうだ。
面白くない私は「バカじゃないの」と言いながらも、いつものようにダンボールに入った漫画を取り出し、ソファーにもたれながらテレビを見た。
そんな気だるいスタートだったが、ぼちぼち始まった作戦会議は、バンド経験が豊富な彼のリードにより、思いのほか有意義なものとなり、とても明るい未来を描くことができた。
そういう時の彼は、実に頼もしい。
会議中に彼が「喉が渇いた」と言って、冷蔵庫を開けた。
「お酒飲んでいい?」
常にドライバーである彼がお酒を飲む姿は、たぶんここでしか見られない。
「うん、いいよ」
珍しくお酒を飲むなんて言うもんだから、なにか気分転換でもしたいのかな。それに、お酒飲んだことあるのかなと、少し心配になった。
そんな心配をよそに、梅酒を水のように喉を鳴らしながら飲み干した。
「ははっ、そんな風にお酒を飲むやつ、初めて見たよ」
「喉、渇いてたからな」
砂漠の中を6時間歩いて、やっと水にありつけたラクダのような顔だった。
しかし、5分もすると彼は目を充血させ始め、船をこぐ準備をし始めた。
今日はここまでかな。
と帰ろうとした時、気づいた。
「あ!お前、お酒飲んじゃったじゃねえか!」
そう、いつも帰りは車で送ってくれるのだ。
好意で「送っていただいている身」ではあるものの、当然送ってもらえるものだと思い込んでいたのだ。
習慣というのは謙虚さを消し去るものである。
「しょうがない、今日は歩いて帰るわ」
湿っぽく私がそう言った。
すると彼は不敵な笑みを浮かべ、こう言った。
「だから、、お酒飲んで良いか聞いたんだ。」
薄暗い部屋の中で、グラスの底に残った最後の一口を、いやらしく啜った。
彼にはこういう一面がある。
そしてそういう時の彼は、
実に楽しそうだ。
注:ノンフィクションですが、多少、脚色しております。

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